北九州の自然保護活動・今昔(いまむかし)
曽根干潟をラムサール条約登録湿地に!
イラスト:Ⓒセイブ・ソネ・ウエットランド
【はじめに】 現在(2025年1月)、北九州市が曽根干潟の後背地を開発しようという計画が動いています。その以前2017年には曽根干潟に風力発電計画が持ち上がりました(2019年に計画中止)。行政も事業者も、北部九州有数の干潟である曽根干潟とその後背地の価値を重要視していないため、いつも開発の懸念がある曽根干潟と後背地です。
今から30年前、曽根干潟の自然を守ろうと活動した市民団体があります。「曽根干潟を守る会」(セイブ・ソネ・ウエットランド)です。日本野鳥の会会員であるご主人の応援を受けて、代表を務めた女性とサポーターが精力的に活動しました。日本野鳥の会北九州支部の有志会員も活動に賛同し、一緒に活動しましたが、曽根干潟で毎月探鳥会を開催していた北九州支部自体は連携した活動ができなかったようです。曽根干潟を大切に思う気持ちは同じだったでしょうが・・・。
以下、1994年からの「守る会」活動事績(関連事項含む)をご覧ください。曽根干潟と後背地、そして周辺の自然環境が今後も保全される(今よりも悪くならないように)ことを願って、そして、今後の保全活動の参考になれば幸いです。
1994年(H.6)
◆「ズグロカモメシンポジウム」(2月19日)曽根干潟でズグロカモメ越冬調査の実施に合わせて開催。主催:WWFJ(世界自然保護基金日本委員会)
◆「小倉南区の野鳥の生態」と題して、小倉南区役所で曽根干潟の野鳥写真展開催。(2月14日~25日)
◆英国のズグロカモメの研究家マーク・ブラジル氏(WWF香港駐在員)が曽根干潟を訪れた。(3月5日)
ⒸS.TAKAHASHI
※ズグロカモメ(絶滅危惧種):1976年、初めてズグロカモメ(2羽)を確認。 1994年2/19~28のズグロカモメ越冬調査結果:曽根干潟(220羽)、諫早干潟(200羽)、東与賀干潟(180羽)、球磨川河口(300+)など。全生息数約2千羽のうち、九州だけで930羽確認。(WWFJによる調査)
◆「曽根干潟を守る会」(セイブ・ソネ・ウエットランド)3月に発足。
◆日本野鳥の会北九州支部が北九州市長宛に意見書を提出。「曽根干潟を現状のまま残すべき」(5月17日)
◆小倉北区で街頭署名活動「ラムサール条約指定湿地を目指して」(6月26日)
◆北九州市議会に2万1千人の署名を添え、曽根干潟一帯の現状保持とラムサール条約登録湿地指定、周防灘地域開発構想の白紙撤回を求める陳情を行った。(9月27日)
◆新北九州空港―環境庁が埋め立て同意(10月13日報道) 環境庁は「九州を代表する干潟で渡り鳥を始め多様な生物の生息環境として極めて重要としたうえで、鳥類やカブトガニの生息状況を継続的に調査、必要に応じて専門家の指導や助言を得て保全に万全を期すこと」。山本哲江代表は「新空港建設に反対ではないが、環境庁から干潟の重要性が認められたことは非常に意義深い。周防灘地域開発構想での干潟一部埋め立て撤回や、ラムサール条約登録湿地を目指す市民運動のスタートラインに立てたと思う。」と評価。
◆「曽根干潟でカブトガニ繁殖―全国で7番目、保護運動に弾み」
10月16日干潟南側で今年産卵してふ化したばかりの「一齢幼生」数十匹を確認。
◆曽根干潟で九州北東部にしか残っていないアオギス(稚魚約10匹)が繁殖していることが「曽根干潟を守る会」などによって確認された。(10月23日)
◆WWF日本委員会会長が曽根干潟を視察。(10月30日)
◆末吉興一北九州市長に対し、公開質問状を提出。(11月28日)
1.曽根干潟よりも、埋め立てて開発することの方が大切か。
2.干潟の価値をどう評価しているか。
3.干潟を保全する具体的な方法。
4.環境教育とはどのようなものと考えるか。
◆環境庁長官及び文化庁長官宛に要望書を提出。(12月)
1.環境庁長官宛要望書(抜粋)
「曽根干潟に生息する鳥類・水生生物の保護及びその生息環境の保全に関する要望書」
・ラムサール条約に基づき、曽根干潟を登録湿地に指定すること。
・曽根干潟を自然環境保全地域の特別地区に指定すること。
・ズグロカモメを国内希少野生動植物種に指定し、曽根干潟を生息地保護区等の管理地区に指定すること。
・曽根干潟を鳥獣保護区特別保護地区に指定すること。
2.文化庁長官宛要望書(抜粋)
・ズグロカモメの種又は同種の渡来地としての曽根干潟を天然記念物に指定すること。
・カブトガニとアオギスの生息地として曽根干潟を天然記念物に指定すること。
1995年(H.7)
◆北九州市長に再回答を求め要望書提出。(2月21日)
‘94年11月に提出した公開質問状に対する回答が「どの質問にも答えておらずあまりに不誠実」として再回答を求める要望書を提出。
◆間島で植生調査を実施。(北九州植物友の会の協力)約200種の温帯性海岸植物を確認。(5月3日)
◆「海のゆりかご‘95曽根干潟」と題した新聞連載に原稿を提供。(5月)
※曽根干潟で標識のついたオオソリハシシギ3羽を確認。オーストラリアとニュージーランドでつけられたもの。(4/17)
◆「プレ・ラムサール・シンポジウム」開催(3月3日)
日韓両政府に対し、両国で自然破壊の危機に直面している干潟をラムサール条約に登録するよう求め、アピール。曽根干潟、和白干潟、諫早干潟、的場ヶ浜干潟(臼杵)など、「九州・南西諸島湿地ネットワーク」を結成。
◆「第6回ラムサール条約締約国会議」(3月19日~27日)に会のメンバー3名でオブザーバー出席。
各国NGOとの交流やアピール活動を行った。
◆福岡県知事に要望書提出(4月17日)
「和白干潟および今津干潟を中心とした博多湾と曽根干潟をシギ・チドリ類保護の国際ネットワーク対象地域とすることを求める」(博多湾市民の会と連名)
◆WWF日本委員会会長、2度目の曽根干潟視察(4月23日)
曽根干潟をラムサール条約登録地として環境庁に推挙しているWWF日本委員会の羽倉会長は視察後、北九州市顧問の小野勇一氏を訪ね、ラムサール条約登録地と「シギ・チドリ保護区ネットワーク」指定への協力を要請。
◆「曽根干潟ってなあに?」干潟の生きものを紹介する講演会・ミニコンサートを開催(7月28日)
◆「日本カブトガニを守る会」会長が視察(8月31日)
関口会長と土屋副会長が昨年に続き2回目の調査。「干潟が汚れておらず、エサとなる生物も多い。近年に確認された繁殖地の中では有望」と評価。
1997年(H.9)
◆干潟の希少種発見
・巻貝のクロヘナタリ、シマヘナタリ(絶滅危惧種)、フトヘナタリ(危急種)(4月1日報道)
・ワカラウツボ、イチョウシラトリ、マゴコロガイなどの絶滅危惧種7種、危急種17種の貝類の生息を確
認(5月7日)
・ヨロイイソギンチャクの仲間(未確認)、貝類のヒナユキスズメ、シラギク、カキウラクチキレモドキ、
カハタレカワザンショウの危急種、ヤチヨノハナガイ(絶滅危惧種)の殻を確認(6月11日)
【曽根干潟を守る会の活動を振り返って】代表を務めた女性から
30年前くらい、当時私は個人的には石鹸(合成洗剤ではなく)を使う暮らしを選び、プラスチック類をなるべく使わず、農業、自然環境、食品添加物などへの意識を持って生活していました。
子育て中のそんな時、曽根干潟とその周辺の開発構想が発表されました。生物多様性が壊されることの危機感を多くの人が持っていました。
私には鳥類や貝、カブトガニの生態への知識もなく、保護の取り組みとして何をすればいいのかも分かりませんでした。とにかくできることをやろうと、数人が集まりました。守る会のスタートです。
発想も行動もすばらしい心ある人たちが集まってくれました。頭を寄せ合い、力を寄せ合い、署名活動、ラムサール条約への働きかけ、干潟保護に取り組む人たちとの交流、そして、鳥やカブトガニを専門的に研究する方々を招いてのシンポジウム、干潟ウオッチング・・・と、たくさんの人たちの力添えにより、“自然保護” について共有の輪が拡がったことを実感しました。思いが叶わぬ部分もありますが、それも後(のち)の力になると信じます。
20年前に体の具合を悪くし、継続して活動できなくなりました。申し訳なさと感謝を持って、「曽根干潟を守る会」でご一緒してくださった皆さんをふり返っています。
【おわりに】ブログ作成者から
「曽根干潟を守る会」の代表を務めた女性は、そもそも環境保護の思いが強く、ご主人が野鳥観察のため足繁く通う曽根干潟に関心を持ったのがきっかけで、曽根干潟の保護問題に取り組むようになりました。会のメンバーは女性中心の10人ほどでしたが、そのエネルギーとパワーは、当時カルスト台地平尾台の保護活動をしていた私も、見習うべきことが多々あったことを思い出します。
「曽根干潟を守る会」の活動から30年、経済活性化の名のもとに、開発が押し寄せ、環境アセスは単なる手続き化し、自然環境への影響を懸念する声も細まり、一部の人たちによる保護活動でしかないような感があります。曽根干潟を守る会の活動を生かすために、北部九州有数の干潟である曽根干潟とその後背地の保全に向けて、大きな市民運動にしなければなりません。
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