市街地の中に残った里山~山田緑地
北九州の自然保護活動・今昔(いまむかし)
市民団体が望んだ自然教育園、その山田緑地は今...
巻末に最新状況!
◆戦前、戦中は、旧日本陸軍により弾薬等の填薬所として使用され、戦後から1972年の間は在日米軍が弾薬等の填薬作業を行っており、そこでの弾薬がベトナム戦争で使用されたとして、国会で問題になったことがある。
◆旧日本陸軍の山田弾薬庫跡地で、1972年(昭和47年)に、米軍より大蔵省(当時)へ返還。その後、敷地は大蔵省、自衛隊、北九州市に3分割された。
◆1983年(昭和58年)3月に、一部敷地にて「北九州やまだ子供広場」を開園。その後、大蔵省管轄分の払下げを受け、1987年(昭和62年)より公園整備開始。
◆1995年(平成7年)に山田緑地として開園
(残る北側の敷地は陸上自衛隊山田訓練所として訓練等に使用されている)
★敷地内において奇形のカエルが発見され、近隣での環境汚染が疑われたが、その後の調査・研究によって環境汚染の事実はなく、遺伝によるものであるとされた。
(引用:Wikipediaより)
【山田緑地の自然】
<植 物>1990年4月~9月調査
シダ植物:67種 種子植物:579種 計:646種
<昆 虫>1990年5月~8月調査
トンボ類:54種 バッタ類:77種 セミ類:8種 カメムシ・アメンボ類:87種
甲虫類:298種 チョウ・ガ類:611種 アリ・ハチ類:60種 計:約1200種
<鳥 類>1987年、1988年、1990年に調査 計:86種
(1963年~1986年の24年間の観察記録では127種を記録)
★近年の観察会(5月の市民探鳥会)では、25種前後が観察記録されているが、山田緑地全体としては、種・個体数ともに減少傾向。
<哺乳類>1987年~1991年に調査 計:21種
(引用:1992年北九州市自然史博物館発行「山田緑地の自然」より)
【山田緑地をめぐる動き】1992年頃
その1.「山田緑地に自然教育園の設置を求める会」
構成団体:日本野鳥の会北九州支部、北九州植物友の会、北九州自然観察指導員連絡協議会など。
その2.「来た吸収クラブ」(北九州市民のアイデア集団)
「山田緑地アミューズメント(娯楽)パーク構想」を北九州市に要望。大浴場、アスレチック広場、ミニSLなど(いわゆるテーマパーク)を提案。
その他、サッカー場、大規模住宅団地、自然史博物館分館などが取りざたされた。
「山田緑地に自然教育園の設置を求める会」の活動
1989年7月~1990年10月の記録
引用:1991年2月北九州植物友の会会報より
「山田緑地に自然教育園の設置を求める会」は、5団体(※)と個人により構成され、北九州市に自然教育園の設置を求めるとともに、山田緑地の自然の重要性を市民に理解していただけるように、1989年10月8日以来、9回の自然観察会を山田緑地で開催してきました。また、「山田緑地イラストマップ」の作成、「北九州市立山田緑地自然教育園構想」の発表を行い、北九州市に対しては、はがきによる請願運動、「山田緑地の自然環境の保全と利用に関する意見と要望」等の活動を行ってきました。
※「福岡県の自然を守る会」「北九州植物友の会」「日本野鳥の会北九州支部」「福岡県自然観察指導員連絡協議会」「北九州蛇族愛好会」
【自然教育園の設置を求める理念について】
1.自然史博物館の付属の施設として位置付けられるべき
2.自然に関する調査研究を行うとともに、自然や環境に関する講義や実習などの教育普及業務を児童生徒や一般社会人に対して行う
3.自然教育園の業務を支えるために、社会人ボランティアの養成をこの自然教育園自身で行う
4.自然教育園がその役割を十分果たすためには、調査研究、資料の展示保存、実験、講義などが行える自然教育センター、自然観察路、観察小屋、炭焼がま、のような体験施設などを整備する必要がある
5.自然環境の破壊につながるような工事を避け、必要に応じて環境修復を行う
6.山田緑地をいくつかのエリアに分け、その自然環境に適したものとなるように留意しなければならない
「私たち会は、山田緑地の自然を里山として残し、多くの市民や子どもたちが自然と触れ合い、人の生活と自然のかかわりや、自然の素晴らしさを学ぶ場所として後世に伝えることが、北九州市民の義務であり、財産だと考える。そのため、ここに北九州市独自の自然教育園を設置することを求めてきている」
【活動経過】抜粋
1989年(平成元年)
7月:山田緑地に自然教育園の設置を求める会準備会
10月:北九州市自然保護課と意見交換
第1回山田緑地自然観察会開催
北九州市自然保護課および自然史博物館へ自然教育園の設置を求める要望書を提出
12月:自然教育園構想検討
1990年(平成2年)
2月:山田緑地自然教育園概念図案の作成、山田緑地の利用方法について
4月:自然教育園構想まとめ
8月:北九州市への意見書、はがき請願活動
「都市の自然を考える北九州国際シンポジウム」で山田緑地の重要性を訴え
同上シンポジウムのエクスカーションで各国の生態学者が山田緑地を視察
「山田緑地の自然環境の保全と利用に関する意見ならびに要望」を北九州市に提出
10月:第9回山田緑地自然観察会開催
1995年(平成7年)
5月:山田緑地の自然をほぼそのまま残す形で、「広域公園山田緑地」が開園
北九州市による「遊び場ゾーン(エコプレイパーク)拡大計画」
【経緯】
2018年2月
北九州市による第1回「山田緑地30世紀の森づくりアドバイザー会議」開催
議題として、新たなエコプレイパーク、木の遊び場計画が出された。(特に反対なし、賛成もあり)
同年5月
「山田緑地の自然を未来に繋ぐ会」(その後「自然と子どもを繋ぐ会」)より、日本野鳥の会北九州支部に山田緑地の自然環境への影響について相談を受けた。
同年5月27日
山田緑地で、北九州市建設局みどり公園整備課によるパルパーク計画説明会開催。
同年6月4日、11日
「自然と子どもを繋ぐ会」が北九州市議会に陳情書提出・口頭陳述
同年6月22日
第2回「山田緑地30世紀の森づくりアドバイザー会議」開催(コナラ林の管理について)
同年6月28日
山田緑地パルパーク計画の説明を受ける(北九州市建設強公園緑地部みどり公園整備課より)。
出席:日本野鳥の会北九州支部 北九州植物友の会
【計画の概要】
山田緑地の利用者増の目的のために、(株)小学館発行のアウトドア雑誌BE-PALが展開する「パルパーク」の「子どもたちが自然を楽しみ学び、自由に遊べる理想の公園づくり」が山田緑地の自然型プレイパークと合致する。芝生広場の隅に遊具設置、森の中に木のブランコ、野草広場にたき火ゾーンなど。
◆みどり公園整備課の説明の中から
「計画説明のため公聴会などで幅広く意見を聴くと収拾がつかなくなる」「管理事務所やボランティアの意見も聴いたが、概ね賛成してもらったと思っている」「アドバイザー会議(※)があるから環境局(自然共生係)に意見を求めない」「まずは山田緑地に来てもらうには遊具は必要」「都市計画で開発が制限(市街化調整区域)されているため、保全・保護区域は守られる」
※アドバイザー会議
北九州市内外の哺乳類や森林学、昆虫、両生類、鳥類などの識者と山田緑地管理者、公募による市民などから構成された「山田緑地30世紀の森づくりアドバイザー会議」と名付けられた。みどり公園課はこの会議で特に反対がなかったと言っているが、識者や市民からの意見を聴いたという既成事実をつくり、理解を得る目的のアドバイザー会議である。会議メンバーの一人から、「お墨付きを与えるために出席しているのではない」と念押しされていたように、会議の趣旨に疑問を持ったメンバーがいた。
◆野鳥の会北九州支部の感想
・利用者増のために目新しいことをアピールし、自然環境への影響には触れず、増してや野鳥への影響についても気にする様子はなく、利用区域だから利用する。保全保護区域は扱わないという説明に終始した。
・幅広い意見を聴いて収拾をつけるのが仕事のはず。市民の負託に応えようとしていない。
・概ね賛成してもらったと言うのは、すでに決まった計画を進めるための行政の悪癖。
・環境局自然共生係の意見を聴かなかったのは、縦割り行政の悪例。自然共生係を軽視。
◆北九州植物友の会の感想
・保全保護区域をいかに守らせるかが重要。今後も改変されないという保証はない。保全保護区域の手前エリアはある程度の改変はやむを得ない気がする。
・市街地のどこにでもあるような公園にはしてほしくない。
・市民に興味を持ってもらえるような自然観察などで、入場者を増やす方が山田緑地らしい方法ではないか。
「自然と子どもを繋ぐ会」の陳情
2018年5月、山田緑地で自然保育(※)をしているお母さんグループの「山田緑地の自然を未来につなぐ会」(自然と子どもをつなぐ会)は、北九州市議会に陳情を行った。
※自然保育
保育施設は持たず、公共の緑地公園などの自然の中で子どもたちを遊ばせて、自然とふれあう中で保育していこうという保育の形である。国内では認可している自治体もある中、北九州市では認可されていないが、山田緑地からは自然保育に便宜を図らってもらっていたが、陳情後はそれがなくなった。
<陳情要旨>北九州市議会建設建築委員会へ
山田緑地の利用区域において、遊歩道のアスファルト舗装化や芝生広場への遊具設置、野草広場でのたき火場づくり等のパル・パークプロジェクトが進められているが、生態系への影響の規模等は明らかにされず、市民の声が届かないまま進められている。利用区域の活性化だけに焦点を当てず、山田緑地本来の「30世紀の森づくり」に沿った視点で捉え、利用計画については総合的に調査・研究をしていただきたい。そして、その結果を森づくりや管理に生かし、利用計画については教育・環境・生態系保護の分野の専門家、市民、行政とともに、考えていくことを望む。
1.遊具設置工事を一時中断し、改めて市民の声を聴き、再検討を行うこと(不採択)
2.パル・パークプロジェクトは、自然保護と自然とのふれあいを目的とした場所である山田緑地ではなく、他の荒廃した里山において、間伐による雑木林の管理や炭焼きを検討すること(不採択)
3.アスファルト舗装にした遊歩道は、自然環境に影響を与えない自然土を生かしたものにし、取り除いたベンチを高齢者のために再配置すること(不採択)
4.山田緑地の森づくりにおいては、関係局と連携し、専門知識やデータが自然保護や生態系保護に反映され、活用されるように管理していくこと。また、利用区域に関しては、関係局や有識者、利用者と共同で進めることができるように、意見陳述や議論できる場を設けること(継続審査)
<公園整備課の見解>( )内はブログ作成者のつぶやき
「山田緑地は都市公園の位置づけ」(だから遊び場ゾーンは当然?)
「山田緑地を利用する人たちから、園路整備や遊具設置の希望があった」(自然保育のお母さんたちの希望はなぜ聴かなかった?)
「たき火ゾーンの設置は生態系に影響があるとは思っていない」(たき火ゾーンの設置によって草地面積が減り、草原性の野鳥への影響は起きているはず)
「遊び場ゾーンはごく一部」(そのためにイチイガシの林の地面が掘り返された)
「すでに工事が進んでおり、中断すると補償が発生する」(これが計画を見直さない本当の理由であろう)
【ブログ作成者から一言】
市街地に近い山田緑地は、北九州市に払い下げられた当初から、常に開発対象として狙われてきたのではないかと思われますが、山田緑地としてスタートしたときは、当時の北九州市の判断を評価しました。「自然教育園の設置を求める会」が望んだ形にはならなかったようですが、大規模住宅団地やテーマパークにならずに良かったと思っています。その後、公共施設の民間委託運営が始まり、その評価として利用人数の増加が求められ、利用者増のためには、施設の目的とは違和感のある行事が行われています。山田緑地の遊び場ゾーン拡大もその一環だったのでしょう。
2025年の今、山田緑地は野鳥の個体数が減ったと方々から指摘され(種数は大きな減少はなさそう?)、野鳥の会北九州支部は探鳥会を行わなくなりました。毎年春に開催していた「市民探鳥会」も、参加者からの不評で開催を見合わせています。遊び場ゾーンの拡大で野鳥の生息に影響があったのは間違いないでしょうが、山田緑地は野鳥が増えるような工夫を積極的に実施しているのでしょうか。植物観察グループにも見限られた山田緑地ですが、今以上に遊び場が増え、伐採されたりしないことを願うばかりです。市街地に残った緑地を山田緑地とした当時の思いをふり返ってほしいものです。
【山田緑地のその後】2025年3月
案の定・・・
ツリー型ジャングルは・・・→使用禁止になっていた。都市公園でもよくあるケース。
「30世紀の森づくり」にそぐわない遊具設置の果てがこの始末。利用者増しか考えない安直
なお役所仕事と言うべきでしょうか。
そして「30世紀の森づくり」はどうなっているのか・・・
利用区域と言えども、大きくもない木を、こんな雑な伐採でいいのでしょうか。とても計画的な間伐?とは思えません。これも「30世紀の森づくり」?(森のゲート手前)
森の木を切る、草原を無くす、たき火をする、
“自然の中で遊ぶ ”ってそんなことでしょうか。何かカン違いしているのでは?
これでは山田緑地の自然価値は下がる一方です。利用人数が増えたとしても野鳥は減るばかりでしょう。「30世紀の森づくり」が空しく響きます。山田緑地主催の野鳥観察会は行われているようですが、自然環境のシンボルである野鳥が増えるような積極的な保護活動を実施してほしいですね。
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